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リース会計

04.01.2014 | カテゴリー, Accounting

概要と経緯

近年 Financial Accounting Standards Board (米国財務会計基準審議会、“FASB”)と International Accounting Standards Board(国際会計基準審議会、”IASB”)が、合同プロジェクトによる会計基準のコンバージェンスを行っています。これら合同プロジェクトの目標は、米国、国際会計基
準双方の改善とともに、単一でグローバルな会計基準の構築にあります。

その中でもより多くの企業にとって影響があると思われるのが、リース会計基準の改訂です。以前から現行のリース会計基準は、財務諸表利用者のニーズを満たしていないのではないか、という問題意識が持たれており、FASB と IASB の合同プロジェクトによるリース基準の改善が2006 年に着手されました。リース基準改善の主な目的は、特に企業がリース契約の締結によりさらされているリスクなどに関しての透明性を向上させる点にあります。

現在まだ審議中の当プロジェクトですが、2013 年 5 月に公表された再公開草案における現行の会計基準との違いを紹介したいと思います。

現行の基準との主な違い

まず、現行のリース会計の処理は米国、国際会計基準ともに類似しています。また前述のとおり、新基準の構築は FASB、IASB によるコンバージェンスの一環として進められており、そのため新基準の処理も類似したものとなることが予想されます。2013 年 5 月に公表された両組織の再公開草案はほぼ同一となっています。

従来の会計処理は、リース対象となる固定資産の貸借対照表上での認識に焦点がおかれていると考えられます。オペレーティング・リースでは貸手側、ファイナンス・リース(キャピタル・リース)では借手側それぞれの貸借対照表にリース資産が計上されます。これは資産の所有に伴うリスクと経済的利益が実質上どちらにあるかを考慮し、取引の実態をファイナンス(または資産の売買)かそれ以外(資産のレンタル)のどちらとして捉えるか、という考えが基本になっています。

これに対し再公開草案における改訂案では、リース契約から発生する権利と義務に焦点が置かれています。借手は契約から生じるリース資産のリース期間中の“使用権”とリース料の“支払義務”を、貸手はリース期間にわたってリース料の支払いを受ける権利を、それぞれ貸借対照表で認識することとなり、一部の短期リースを除いた全てのリースにおいてオンバランス処理が求められています。

借手の会計処理

最初に現行基準、次に改訂案における借手側の会計処理の主なポイントをまとめたいと思います。

現行の基準:

まず、借手、貸手ともにいくつかのガイドラインをもとに、リース取引をカテゴリーに分類します。この際の区分は、大きく分けてファイナンス・リース(キャピタル・リース)とオペレーティング・リースになります。ファイナンス・リース(キャピタル・リース)、オペレーティング・リースそれぞれの借手側会計処理の主要な点は以下のとおりです。

現行の基準(借手) 取引開始時点の処理 リース期間中の処理
ファイナンス・リース(キャピタル・リース)
  • リース対象資産(*)と、同額のリース債務を貸借対照表に計上。
  • リース資産の償却費(**)が費用として発生時に損益計上される。(リース資産の簿価が減少する。)
  • リース債務にかかわる利息が費用として発生時に損益計上される。(リース債務が発生利息分増加する。)
  • リース料の支払いによりリース債務が減少する。
オペレーティング・リース
  • リース資産に直接かかわる資産、負債は特に認識されない。
  • リース期間中の契約リース額が一定でない場合などに、期間中の費用の認識を定額とするため、繰延賃貸料が貸借対照表に計上される。
  • リース料総額をリース期間で配分した定額(***)が、リース費用として発生時に損益計上される。

* (基本的には)リース料の現在価値。
** 通常の固定資産の償却方法のポリシーにもとづき、経済耐用年数かリース期間のどちらか(キャピタル・リース判定時の条件次第)で償却。
*** 基本的には定額だが、もし定額以外に資産の経済的利益の消費パターンをより適切に表す方法があれば、そちらを使用。

改訂案:

これに対し改訂案では、従来のファイナンス・リース、オペレーティング・リースの区分の代わりに、タイプ A、タイプ B のリースに分類されることとなります。

タイプ A リース

主に不動産以外の資産のリース。
ただし以下のいずれかにあてはまる場合は除く:

  • リース期間が原資産の総経済的耐用年数の重要な部分を占めていない場合。
  • リース料の現在価値が、リース開始時点の原資産の公正価値と比較し、重要な部分を占めていない場合。

また、借手にとって買取オプションを行使する経済的動機が非常に強いと見られる場合も、タイプ A と分類する。

タイプ B リース

不動産リースおよび、不動産以外のリースで、上で述べた1、2いずれかの条件にあてはまるもの。

改訂案における借手側の会計処理の主要な点は以下のとおりです。

再公開草案(借手) 取引開始時点の処理 リース期間中の処理
タイプ A
(主に不動産以外の資産のリース)
  • リース使用権(* 資産)、リース債務(* 負債)を貸借対照表に計上。
  • 使用権資産の償却費(**)が発生時に損益計上される。(使用権資産の簿価が減少する。)
  • リース債務にかかわる利息が費用として発生時に損益計上される。(リース債務が発生利息分増加する。)
  • リース料の支払いによりリース債務が減少する。
タイプ B
(主に不動産リース)
  • リース使用権(* 資産)、リース債務(* 負債)を貸借対照表に計上。
  • リース料総額をリース期間で配分した定額が、リース費用として発生時に損益に計上される。損益上はタイプ A の様に償却費と利息費用といった区分はなし。(リース債務が発生利息見合い分増える。発生リース費用と利息見合い分の差の分使用権資産の簿価が減少する。)
  • リース料の支払いによりリース債務が減少する。

* 基本的にはリース料の現在価値。
** リース期間か経済的耐用年数どちらかの短い年数で償却。(買取オプションの権利を行使する可能性が高いと見込まれる場合には、リース期間を選択。)また償却方法は基本的には定額だが、もし定額以外に、リース資産の行使によって借手が受ける経済的利益(恩恵)の消費パターンをより適切に表す方法があれば、そちらを選択可。

タイプ A、タイプ B いずれの場合も、短期リースを除き、基準の対象となる全てのリースにおいて、リース料の現在価値とリース使用権とリース債務を、それぞれ資産、負債として貸借対照表で認識することが求められています。

なお短期リースとは、更新オプション期間を含め、契約時において最長のリース期間が 12 ヶ月以内で、買い取りオプションがないものを指しています。短期リースに関しては、資産、負債を計上せずに、リース料をリース期間にわたって定額で認識する、従来のオペレーティング・リース同様の会計方針の選択が可能です。

貸手の会計処理

現行の基準:

現行の基準にもとづく貸手側の基本的な会計処理は以下のとおりです。

現行の基準(貸手) 取引開始時点の処理 リース期間中の処理
ファイナンス・リース
  • リース料投資未回収額を債権として貸借対照表に資産計上。
  • リース債権にかかわる利息が収益として発生時に損益計上される。(リース債権が発生利息分増加する。)
  • リース料の受取りにより、リース債権が減少する。
オペレーティング・リース
  • リース資産が貸借対照表に計上される。
  • リース期間中の契約リース額が一定でない場合などに、期間中の費用の認識を定額とするため、繰延賃貸料が貸借対照表に計上される。
  • リース料総額をリース期間で配分した定額(*)が、収益として発生時に損益計上される。
  • リース資産の償却費(**)が費用(コスト)として発生時に損益計上される。

* 基本的には定額だが、もし定額以外に貸手に生じる経済的利益のパターンをより適切に表す方法があれば、そちらを使用。
** 通常の固定資産の償却方法と期間のポリシーにもとづく。

改訂案:

借手側同様、ファイナンス・リース、オペレーティング・リースの区分ではなく、タイプ A とタイプ B のリースに分類されます。

再公開草案(貸手) 取引開始時点の処理 リース期間中の処理
タイプ A
(主に不動産以外の資産のリース)
  • リース債権(*)、リース資産の残存価値(**)を、資産として貸借対照表に計上。
  • リース債権にかかわる利息が収益として発生時に損益計上される。(リース債権が発生利息分増加する。)
  • 残存資産の割引振戻しの際に発生する増加額が収益として発生時に損益計上される。(残存資産が増える。)
  • リース料の受取りにより、リース債権が減少する。
タイプ B
(主に不動産リース)
(現行のオペレーティング・リースと同様。)

  • リース資産が貸借対照表に計上される。
(現行のオペレーティング・リースと同様。)

  • リース料総額をリース期間で配分した定額(***)が、収益として発生時に損益計上される。
  • リース資産の償却費(****)が費用(コスト)として発生時に損益計上される。(リース資産の簿価が減少する。)

* 基本的にはリース料の現在価値。
** リース終了時における残存価値の現在価値。
*** 基本的には定額だが、もし定額以外に利益が生じるパターンをより適切に表す方法があれば、そちらを使用。
**** 通常の固定資産の償却方法と期間のポリシーにもとづく。

短期リースについては借手と同じく、現行のオペレーティング・リース同様の会計処理を会計方針として選択することが可能です。リース収益は定額(もしくはより適切に利益の発生パターンを表すシステマティックな方法)で認識することとなります。

現行基準と改訂案の会計処理の違い

現行のリース会計基準と、改訂案による会計処理を比較し、損益、貸借対照表における処理の違いをまとめてみました。

損益における違いと影響:

それぞれのカテゴリーにおける、損益にかかわる会計処理の主要な点は以下のとおりです。

損益に関わる会計処理 借手 貸手
オペレーティング・リース
  • リース料総額をリース期間で配分した定額(*)を費用として認識。
  • リース料総額をリース期間で配分した定額(*)を収益として認識。
  • リース資産の償却額(**)を費用として認識。
ファイナンス・リース
(キャピタル・リース)
  • リース資産の償却費(***)と、リース債務にかかわる利息を費用として認識。
  • (基本的には)リース債権から生じる利息を収益として認識。
タイプ A リース
  • 使用権資産の償却費(***)と、リース債務にかかわる利息を費用として認識。
  • (基本的には)リース料投資額から生じる利息を収益として認識。
  • 残存資産の割引振戻しの際に発生する増加額を収益として認識。
タイプ B リース
  • リース料総額をリース期間で配分した定額(*)を費用として認識。
  • リース料総額をリース期間で配分した定額(*)を収益として認識。
  • リース資産の償却額(**)を費用として認識。

* オペレーティング・リース、タイプ B リースにおけるリース費用・リース収益の認識は、どちらも基本は定額、もし定額以外により適切と見られる方法があればそちらを選択。
** 貸手のオペレーティング・リース、タイプ B リースにおけるリース資産の償却方法・期間は、通常の固定資産の償却ポリシーにもとづく。
*** 借手のファイナンス・リース(キャピタル・リース)におけるリース資産の償却方法は、通常の固定資産の償却方法のポリシーに基づく。借手のタイプ A リースにおける償却方法は、基本的には定額、もし定額以外に適切な方法があればそちらを選択する。償却期間はどちらも経済的耐用年数かリース期間のどちら。

上記の会計処理から生じる損益への主な影響は以下のとおりです。

損益に関わる会計処理 借手 貸手
オペレーティング・リース
  • リース費用:基本はリース期間中一定。
  • リース収益:基本はリース期間中一定。
  • リース資産償却費:償却方法、期間ともに固定資産の償却ポリシーにもとづく。
ファイナンス・リース
(キャピタル・リース)
  • リース資産償却費:償却方法は固定資産の償却ポリシーにもとづく。償却期間は経済的耐用年数かリース期間。
  • 利息費用:債務残高に利子率を乗じて算定するため、通常費用額は初期が多く、毎期減少していく。
  • 利息収入:債権残高に利子率を乗じて算定するため、通常収入額は初期が多く、毎期減少していく。
タイプ A リース
  • 使用権資産償却費:償却方法は基本的には定額。償却期間は経済的耐用年数かリース期間。
  • 利息費用:債務残高に利子率を乗じて算定するため、通常費用額は初期が多く、毎期減少していく。
  • 利息収入:債権残高に利子率を乗じて算定するため、通常収入額は初期が多く、毎期減少していく。
  • 残存資産の割引振戻し額(利息収入):初期が多く、毎期減少していく。
タイプ B リース
  • リース費用:基本はリース期間中一定。
  • リース収益:基本はリース期間中一定。
  • リース資産償却費:償却方法、期間ともに固定資産の償却ポリシーにもとづく。

借手、貸手ともに現行のオペレーティング・リースと改訂案のタイプ B リース、現行のファイナンス・リース(キャピタル・リース)と改訂案のタイプ A リースの処理・損益への影響は、それぞれ類似しています。 唯一の目立った違いは、借手のファイナンス・リース(キャピタル・リース)のリース資産とタイプ A リースの使用権資産の償却方法に若干の違いが見られる点ですが、実務上は同じ償却方法になる可能性が高いかもしれません。

貸借対照表における影響:

次に貸借対照表における会計処理の違いをまとめました。。

貸借対照表上の会計処理 借手 貸手
オペレーティング・リース
  • リース資産に直接かかわる資産、負債の計上はなし。
  • 繰延賃貸料の計上の可能性あり。
  • リース資産が計上され、毎期の償却により簿価が減少していく。
ファイナンス・リース
(キャピタル・リース)
  • リース資産が計上され、毎期の償却により簿価が減少していく。
  • リース債務が計上され、利息発生により残高が増加、リース料の支払いにより残高が減少していく。
  • リース債権が計上され、利息発生により残高が増加、リース料受取りにより残高が減少していく。
タイプ A リース
  • 使用権資産が計上され、毎期の償却により簿価が減少していく。
  • リース債務が計上され、利息発生により残高が増加、リース料の支払いにより残高が減少していく。
  • リース債権が計上され、利息発生により残高が増加、リース料受取りにより残高が減少していく。
  • リース資産の残存価値が割引現在価値で計上され、毎期の割引の振り戻しにより残高が増加していく。
タイプ B リース
  • 使用権資産が計上され、毎期の償却により簿価が減少していく。(リース債権から発生する利息と、使用権資産の償却費の合計が毎期定額になる様、償却額が調整される。)
  • リース債務が計上され、利息発生により残高が増加、リース料の支払いにより残高が減少していく。
  • リース資産が計上され、毎期の償却により簿価が減少していく。

まず貸手の会計処理ですが、損益同様、オペレーティング・リースとタイプ B リースはほぼ同様です。また、ファイナンス・リースとタイプ A リースは、タイプ A リースにリース資産残存価値の計上がある点を除いて類似しています。

次に借手です。まず、ファイナンス・リース(キャピタル・リース)とタイプ A リースは貸手同様、類似しています。これに対してオペレーティング・リースとタイプ B リースの比較では、オペレーティング・リースが(繰延賃貸料以外)資産、負債の計上を必要としないのに対し、タイプ B ではリース使用権とリース債務の計上が求められている、という明らかな違いが存在します。

また、タイプ B 同様、リース資産、負債の計上がタイプ A の場合にも求められていますので、現行基準のオペレーティング・リースからタイプ A、タイプ B のどちらへと移行する場合でも、改めてリース料の現在価値を見積り、資産、負債として計上する必要が生じます。またその場合、現行基準と比較して貸借対照表上の、総資産、総負債の残高が膨らむこととなります。リース期間中もこれらの残高の動きを記帳しなければなりませんので、その分現状と比較して作業が増えることとなり、リース台数が多い場合には手間を要するかもしれません。

適用時の遡及的処置

現在の再公開草案では、「企業が新しい会計基準を適用する年の財務諸表に表示される、最初の比較期間の期首時点で存在するリース」に対して、新基準の適用が求められています。例えば新基準導入年度の財務諸表において、当年度と前年度を比較期間として表示している際には、前年度の期首までさかのぼって新基準を適用することとなります。なお、導入の際の処置として、完全遡及アプローチのほかに、簡素化された遡及アプローチが救済処置として提案されています。

現状と将来の見通し

当初は 2011 年完了を目指し開始された当プロジェクトですが、2010 年に公表された公開草案に対するコメント、批判などを受け、再審議の上 2013 年 5 月に再公開草案を公表するにいたりました。再公開草案に対するコメントが 2013 年 9 月上旬に締め切りを迎え、現在再審議中です。最終的な新基準書の発効日、またその見通しに関しては現状不明です。

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