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カリフォルニア、ニューヨーク、オハイオ、テキサスの4 州における州所得税の違いについて

08.30.2021 | カテゴリー, Tax

予備知識:

各州税についての説明前に、知っておいていただきたい何点かの項目を以下に示します。

アメリカで会社を設立する際の企業タイプにはさまざまな選択肢がありますが、一般的に、米国での事業主体の種類としては、C Corporation、S Corporation、Limited Liability Company、Partnershipがあります。会社の設立手続きは連邦政府ではなく、州政府にて行われます。会社設立州は、必ずしも事業を行う州である必要はなく、設立手続の煩雑さ、設立費用、会社継続費用(法人税含)、撤退時の簡便さ等さまざまな条件を考慮し州を選ぶことになります。また、設立州と事業を行う州が異なる場合には、事業を行う州に事業登録を行います。以下、一般的なC Corporation に対する州税について説明いたします。

C Corporation(C 株式会社)

C Corporation は、日本の株式会社に似た法人形態で、株主からは独立した納税主体となります。会社定款などを各州当局に提出し、各州法に基づいて設立されます。企業は創立総会、株式発行およびその保持などについて州会社法を遵守しなければなりません。個人、企業、Partnershipなど非企業事業体が、資金や資産との交換に株を取得する出資行為により、株主になります。株主数に制限はなく、株主の種類や株主数の変更は、企業の存在に影響を与えることはありません。株主の責任はいわゆる有限責任で、会社への投下資本に制限されています。

単一事業体 (Unitary Business)

「資本関係、機能統合(一つのビジネスサイクル内の各区分を有機的に担っているか?)、経営の集中化、および経済の規模」などの要素が一定の基準を満たした複数の関連企業まとめてユニタリー・グループ(単一企業体)と分類します。単一企業体と認められた場合は、そのユニタリー企業から稼得された所得を合算して申告することを義務付ける州が多くあります。

州所得税のネクサス(Nexus)

法人税は連邦だけではなく、関連する州(場所によっては郡・市などの地方行政)への申告も必要となります。州等への「申告義務」をどのように判断するのでしょうか?基本的には「事業活動を行っている=Doing business」州等に申告する必要が生じますが、その判断の際に検討するのが、各州等が設定する「ネクサス基準」です。ネクサスとは「特定の州に申告義務の発生する企業の活動状況」あるいは「当該州での事業活動の内容とその規模が一定レベルを超えており、そのため申告義務の発生する状況(一定レベル以上の事業活動)」と読み替えると解り易いでしょう。ネクサスの定義は州によりそれぞれ違いがありますが、主に下記を満たした場合、その州にネクサスがあると判断されます。

  • 物質的なネクサス: 州内に不動産、リース資産、有形動産もしくは従業員を持つために発生するネクサス。事務所の存在など、何らかの物理的存在が州内にあるか否かを条件としています。ここでいう物理的に該当する代表な例として、州に事業登録をしている、州内に事務所がある、州内に在庫がある、州内に従業員がいる、が挙げられ、該当する場合にはネクサス基準を満たしている、ネクサスがあるということになります。以前は物理的ネクサス基準を満たした場合に「事業活動を行っている」とされるのが一般的でしたが、現在では必ずしも物理的ネクサスがなくとも、次に紹介する経済上のネクサス基準を取り入れる州が多くなっています。
  • 経済上のネクサス: 州内でビジネスをおこない、一定レベル以上の収入がある州外の企業に対して発生するネクサス。経済上のネクサスでは、「事業活動を行っている」となるかどうかを売上げなどの金額で判断するものです。最近ではMA州(2018年)、NY州(2015年)、PA州(2019年)、TX州(2020年)が経済上のネクサスをネクサス基準として採用しました。具体的には、年間の州内実績が以下を上回った場合、その州にネクサスがあると判断され州への申告義務が発生します。(2020年現在の数字)
    • カリフォルニア州 州内資産- $61,040 、年間州内給与- $$61,040、年間州内売上- $610,395(いずれか一項目でも)
      コロラド州 州内資産- $50,000 、年間州内給与- $$50,000、年間州内売上- $500,000(いずれか一項目でも)
      マサチューセッツ州 年間州内売上- $500,000
      ニューヨーク州 年間州内売上- $1,0000,000
      ペンシルバニア州 年間州内売上- $500,000
      テキサス州 年間州内売上- $500,000

上記ネクサスの判定で州への申告義務があると判断した場合、次に考慮するのはその州への税務申告になります。税務申告には大きく分けて、所得に対して課せられる「法人所得税」と、州内売上額に対して課せられる「総売上税」の2種類にわかれます。現状では、アメリカの殆どの州が「法人所得税」課税を行っています。一方で、オハイオ州、ネバダ州では「総売上」課税としています。それではまず最初に州の「所得税課税」について紹介します。

州所得税の計算

州所得税の計算方法には、それぞれの州において独自の規定があります。一般的には連邦所得計算を基礎としています。州税算出のため、連邦課税所得に対して次の2段階の調整を経て、税率を掛け合わせ計算されます。第1の調整が、「州法に則った州独自の損金益金の調整」です。法人税法上損金処理されている州所得税、減価償却額が代表的な調整項目ですが、各州が独自の調整項目を設けていますので留意が必要です。そして二つめが州間配賦とよばれる調整です。州間配賦の調整は複数の州への申告を行っている企業が対象です。(例外がありますがここでは割愛します。) ここでは全体の課税所得の何パーセントがその州の課税所得となるかを決定します。

州所得税計算のステップ

連邦課税所得 +/- 州独自の損金益金の調整 = 州間配賦前州課税所得の確定->①
州配賦率の計算->②(配賦方式参照)
州間配賦前州課税所得-① x 州配賦率-② = 州課税所得->③
州課税所得-③ x 州税率 = 州税

州内売上額に対して課せられる「総収入に対する税金の計算」

オハイオ州、テキサス州。近年ではネバダ州がこの課税方式を取り入れています。
オハイオ州、テキサス州計算の明細は後述の州毎の特色にて説明をしていますのでそちらを参照ください。

配賦方式

ネクサスがある州への企業所得の分割は、一般に、非事業所得は所得所在地に配分され、事業所得は定式配賦法により配賦 (apportionment) されます。定式配賦法は各州毎にことなりますので留意が必要です。現在は以下の二通りの方式のいずれかが多くの州で採用されています。

  • 「三要素」方式: 州内の給与額、資産、売上が全体のそれぞれの要素の何パーセントになるかを元に配賦率を決定します。
  • 「売上」方式: 州内売上が全体の売上の要素の何パーセントになるかを元に配賦率を決定します。
    近年では「売上」方式に移行する州が増えてきており、前述のネクサス基準が物理的ネクサスから経済的ネクサスへと移行している事実とあわせ、各州が州内売上を重視しているということがここでもわかります。

州毎の特色

カリフォルニア州 –

カリフォルニア州法人税法は、すべての企業に適用されます。カリフォルニア州会社法は、カリフォルニア州務長官に認可されカリフォルニア州で設立された企業、およびカリフォルニア州で事業をおこなう非認可企業(州外法人)の全てにフランチャイズ税(Franchise Tax)を課します。

カリフォルニア州は、米国外を含む全関連会社の全世界収入を報告するよう義務付けていますが、水際方式(Water’s Edge Election)を選択した場合は、米国外法人を除き米国内にある単一事業体に対して合算申告をすることになります。水際方式を選択をした場合は84ヶ月間(7年)は水際方式での税務申告を認められ、放棄するまで有効とみなされます。なお、水際方式を何らかの理由により放棄した場合もまた、84ヶ月間(7年)は申告方法の変更は認められず、外国法人を含む全世界関連企業をベースにカリフォルニア州の配賦方式に基づいて配分された収益に対して課税されます。

カリフォルニア州法人税率は、一律 8.84%で課税されますが、州課税対象所得がない場合でも必要となるミニマム税の$800は個々の法人に課されます。カリフォルニア州への納税方法は、予定納税や延長申請時の支払額が$20,000 以上になった場合、或いは法人所得税額が$80,000を超える場合に電子納税による納税が必須となっています。

申告書の提出期日は会計年度終了後3ヶ月半以内となっています。6ヶ月の延長が可能です。納税の延長はできませんので、延長申請時に当該年度試算税額の 100%を納税をする必要があります。

ニューヨーク州 –

州税:

ニューヨーク州にネクサスがあると判定される企業は、特別な免除がされない限り、フランチャイズ税の対象となります。また、2015年度の税務申告から50%以上の資本関係があり、一定レベルのユニタリーを構成する企業グループの合算申告が適用されるようになりました。

州法人所得税の税率は6.5 %が適用されていますが、州課税所得が$5,000,000を超える企業には7.25%の税率が適用されます。別途計算を行うミニマム税およびいわゆる外形標準課税である資本ベース税とを比較し、どちらか高い税額を納めることになります。ミニマム税は州内における売上などの総収入に対して税額が割り当てられており、資産税はニューヨーク州に所有している資産の時価を基に計算した企業の純資産にて計算されます。

その他、製造業、新興テクノロジー企業などは税額控除などの特典があります。

ニューヨーク州ではすべて電子納税が必須となっています。

申告書の提出期日は会計年度終了後3ヶ月半以内となっています。6ヶ月の延長、更に3か月の追加の延長が可能です。

MTA 税:

ニューヨーク州のMetropolitan Commuter Transportation District (MCTD)地域内での事業活動による売上がある場合、MTA Surcharge申告書を提出する必要があります。MTCD に含まれるカウンティ郡はマンハッタンを含むNew York Cityの他, 近郊のBronx, Kings, Queens, Richmond, Dutchess, Nassau, Orange, Putnam, Rockland, Suffolk, Westchester です。

MTA税は州税の当該州の割合分に対し一律29.4%が課せられます。MTA税は州税と一緒に納めます。

ニューヨーク市税:

ニューヨーク市で事業をおこなっている、資産がある、リースをしている、または事務所を所持している全ての州内外の企業は、ニューヨーク市税の対象にもなります。

ニューヨーク市は州税と同様に独自の加減算をし、市所得課税対象額を算出します。その所得に対して、一律 8.85%の税率で納税額を決定します。そのほかに州同様の資本ベース税、ミニマム税を計算し、それらの最も高い税金を納税することになります。

ニューヨーク市もすべて電子納税が必須となっています。

申告書の提出期日は会計年度終了後3ヶ月半以内となっています。延長は提出期限より6 ヶ月間可能です。納税の延長は出来ませんので、延長申請時に当該年度試算税額の 100%を納税をする必要があります。

オハイオ州 –

2009年を最後に純利益から計算されるフランチャイズ税は、commercial activity tax (CAT) に変更されました。CAT は年間の課税対象売上に課され、対象は会社に加えて、個人、LLCなどパススルー事業体を含む、企業及び企業形態をとっていない事業体になります。年間の課税対象の売上が$150,000以下の場合は、CAT は免除されます。

50%以上の資本関係がある企業グループは、合算で CAT 納税をするよう義務付けられています。

年間売上げが百万ドル以下の納税者は1月から12月まで12カ月の申告書を翌年5 月 10 日までに提出します。年間売上げが百万ドルを超える納税者は、四半期ごとの申告書提出を求められており、5 月 10 日、8 月 10 日、11 月 10 日と2 月 10 日が提出期限となります。

年間百万ドルを超えるOH州内顧客宛売上に対する0.26%の金額とミニマム税額の合計が税金となります。申告は電子納税が必須となっています。

テキサス州 –

フランチャイズ税はテキサス州で事業を展開しているなどネクサスがあると判定される事業体か、テキサスで登記、設立された事業体または単一事業体に属する関連会社に課されます。

テキサス州は合算申告が必須ですが、外国法人など米国外で事業を行う納税主体が80%以上の資産および給与を米国外に所有する場合は合算には含めません。フランチャイズ税の課税標準はいわゆる粗利です。「企業全体の総収入」をもとに以下4つの計算を行い、一番低いマージン(粗利)に対する税金を納付することになります。①総売上から売上原価(有形資産の売上原価に限る)を控除した額、②総売上から給与を控除した額、③総売り上げの70%(30%の見做し売上原価)、④総売り上げから百万ドルを差し引いた額のの何れか少ないマージンを計算し、テキサス州宛のマージンを計算し税率を掛けて税金計算されます。

税率は0.331%~0.75%の範囲で業種ごとに設定されています。なお、確定税額が$1,000以下の場合には申告書の提出のみで、税金納付は不要です。

申告書提出期限は翌年の 5 月 15 日と決められており、電子納税者は最初の 3 ヶ月と追加の 3 ヶ月の延長申請をそれぞれ提出することにより、最長11月15日までの延長が認められます。また、テキサス州は予定納税システムがないため、申告書提出時に一括納税するか、延長申請時に見込みの当該年度税額の90%を納税することになります。テキサス州に納める全ての納税額が$10,000 以上になった場合、電子納税が必須となっています。

連邦公法(=Public Law) 86-272

最後に、州それぞれが定める税法に深く関わってくる連邦公法(=Public Law) 86-272を紹介します。

要約:「州政府は納税者の州内の唯一事業活動が売上或いは売上勧誘のみである場合、州は納税者に「州に由来する所得に対する課税」をしてはいけない」」

上記ネクサスの判定で州への申告義務があると判断した場合、その州への税務申告が必要になることは前述の通りです。しかしながら、ネクサスを生じた要因が州内売上のみである場合、PL 86-272を適用することで「「所得に対する税金」は納税義務はなし」とのポジションを適用できる可能性があります。ここで注意するのは「売上」は有形資産の売上に限られているということ。州内に役務提供からの収入、無形資産から生ずる収入等がある場合には適用されません。また州が課税できないとされているのは「所得(純利益)」に対する課税のみであり、カリフォルニア州の最低税の$800やニューヨーク州のミニマム税および資本ベース税、テキサス州やオハイオ州の「総収入に対する税金=Gross receipt tax」には適用されません。

州によるPL 86-272条適用可能条件はそれぞれ異なります。適用前には自社の当該州内の事業内容と州のPL 86-272適用可能条件を綿密に分析する必要があります。

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