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米国個人所得税確定申告シリーズ (7) トランプ新政権の個人税務への影響とWEP除外について

04.11.2025 | カテゴリー, Tax

シリーズ最後は、トランプ新政権の個人税務への影響とWEP除外についてです。

2017年、当時の大統領ドナルド・J・トランプ氏によって成立した時限立法Tax Cuts and Jobs Act (TCJA)が2025年末に期限を迎えます。タイミング良く返り咲いた、第47代米国大統領のトランプ第2期政権によって米国税制はどのように変化して行くのでしょうか。ここでは個人税を中心に今後の展望と税制政策の概要を整理したいと思います。

今回の選挙期間中に共和党のトランプ氏の税制改正方針における大きな特徴は、2025年末に終了するTCJAの延長・恒久化でした。

TCJA TCJAが延長されない場合
所得税率 10%~37%の7段階の累進税率 10%~39.6%の7段階の累進税
子女税額控除

(Child Tax Credit)

子供一人につき最大$2,000 子供一人につき最大$1,000
概算額控除

(Standard Deduction)

単身$12,000 ( 2018年当時の数字)

夫婦合算$24,000 ( 2018年当時の数字)

単身$6,350 ( 2017年当時の数字)

夫婦合算$12,700 ( 2017年当時の数字)

 

TCJAに含まれる個人向け減税の中で最も注目されるのは所得税減税と思われます。所得税率の7段階の内、5段階で所得税を軽減する内容で、高所得者層も含めて対象となっています。

所得税率のほか、2017年のTCJAの成立により概算額控除(Standard Deduction)を約2倍にする措置が設けられ、2025年度の場合、単身世帯で$15,000、夫婦合算申告の場合に$30,000と非常に高い控除額となっています。また子女税額控除(Child Tax Credit)はTCJA以前は16歳以下の子供1人$1,000を税額から控除する事ができましたが、TCJAではこれを1人$2,000に倍増しています。トランプ第2期政権はこれを維持する事を主張しています。また、TCJAでは、州・地方税の控除が、上限なしから上限$10,000に変更されています。州・地方税の上限の設定は、州・地方税および固定資産税が高い地域に居住している納税者には不利に働いていおり、控除制限の撤廃、緩和を求める動きが活発です。 項目別控除の所得制限もTCJA下では免除されていますが、以前は制限がかかっており、一定の所得を超えると控除が減額されていました。

TCJA以外で注目される施策は年金など社会保障給付への課税免除、チップや残業代に対する課税免除が挙げられています。

現行では一定額以上の社会保障給付収入がある個人および夫婦合算申告者に所得税が課税され、その税収は老齢基礎年金及び障害者年金基金の財源に充当されています。トランプ氏はこれを廃止する事を提案していますが、代替財源を示しておらず、既に財源不足に陥っている基金の財務バランスを懸念する声が上がっています。

チップ収入は現在給与所得として課税対象になっていますが、トランプ氏はこれらの課税を廃止する事を提案しています。また残業代に対する課税免税については労働意欲の向上につながるとして、残業代に付随する全ての税金を廃止する事を提案していますが、どちらも所得による上限など制度設計に関する具体的な情報は公開されておらず、どの程度の免除となるかは不明です。

トランプ第2期政権がスタートしましたが、財政政策の全体像が明確になるにはしばらく時間が掛かりそうです。どの政策がどのように実行されるか、そしてそれが個人税務にどのように影響してくるかという事に今後注視が必要になります。

米国個人所得税から少し離れますが、WEP除外というホットな話題について少しご説明したいと思います。

WEPとは、米国年金減額制度の事でWindfall Elimination Provisionの略になります。日本では棚ぼた排除規定と呼ばれています。Social Security Tax(SS Tax)を給与から源泉徴収しない雇用主のもとで勤務した場合、Social Security Benefit(SS Benefit)の受取額をその雇用に基づく老齢年金や障害年金の金額によって減額調整する規定の事です。例えばアメリカでは警察官、教師はSocial Securityでは無い年金プランに加入しています。また日本の厚生年金加入者もSS Taxを納めない年金プランという事でこのWEPの対象になっていました。

しかし、このWEPが最近除外になりました。2025年1月5日、当時のバイデン大統領がSocial Security Fairness Act(社会保障公正法)に署名をした事によってWEP制度が廃止され、2024年1月分以降のSS Benefitについて本件改正が適用される事になりました。

既に米国のSS Benefitを受給し、WEPの適用を受けていた方については2025年3月から順次米国Social Security Administration(SSA)において支給額が調整されます。なお、2023年12月分以前のSS Benefitについては引き続きWEPが適用されますが、2022年7月にSSAにおいて「日本の国民年金についてはWEPが適用されない」旨の見直しが行われています。こちらについても過去の支給分の見直し作業が引き続き実施されており、必要と判断された場合は随時給付額の訂正が行われる予定です。

今回のWEPの廃止決定は日本の厚生年金支給者でWEPの減額を受けている方のみならず、将来日本の厚生年金とSS Benefitを受け取る方にとっても朗報です。

この影響を受けてSS Benefitの財源が枯渇するという懸念がある一方、これは米国で暮らす多くの日本人、例えばAmerican Dreamを夢見てこの大地に移り住んで来た人、駐在員としてこの土地で切磋琢磨する人にとっても喜ばしいニュースだと思います。

なお、年金収入は居住地で申告をします。税法上アメリカ居住者が日本から年金を受け取っているような場合には、米国個人確定申告書上で、その他の所得として報告をします。

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