05.04.2018 | カテゴリー, Tax
米国(特にカリフォルニア州)で活動されている企業に有用な税務関連事項をまとめてみました。個人所得税、法人税、資産税やユニタリータックスなど、簡単にまとめてあります。一般論ではありますが、皆様のお役に立てることができれば幸いです。
米国で従業員を雇用する場合には、雇用主は、従業員の給与にかかる税金の源泉徴収義務、給与関係税の納税報告義務があります。通常、Payroll Tax または Employment Tax といわれるこれらの税金について、以下ご説明します。
会社を設立した際に、IRS に Form SS-4(雇用主番号の申請書)を提出し、連邦雇用主番号(FEIN)を取得します。この雇用主番号を取得することにより、連邦に関わる法人税、給与関係税、失業保険の支払い義務が発生することになります。
給与から源泉徴収される源泉所得税は、個人の所得税申告の際には、前払いとなります。米国では、日本で行うような年末調整は会社では行わず、毎年 4 月 15 日までに、個人の所得税申告書をIRS に提出します。従業員は、会社に入社時に、Form W-4(扶養家族数申告数書)を雇用者に提出して、給与から毎月いくら源泉徴収してもらうかを申告しておきます。従業員は、扶養家族の人数が変わった場合、源泉金額を変更したい場合には、新たに Form W-4 を記入して雇用者に再度提出します。この Form W-4 は、会社が従業員の給与からいくら源泉徴収するかを報告するフォームであるので、給与が支給される前に必ず記入、提出する必要があります。
社会保障税は、ソーシャルセキュリティー税 6.0%(老齢者、遺族、障害者保険)とメディケア税1.45%(老齢者、障害者医療保険)からなり、それぞれ従業員と雇用者双方が、給与総額の 50%ずつ負担します。ソーシャルセキュリティー税は年間課税対象上限額が毎年定められており、2018 年度は、$128,400です。メディケア税は、上限がなく、従業員(被用者)と雇用者が給与に応じて、1.45%をそれぞれ負担します。
更に従業員の給与所得額がある一定の額を超える場合に追加で0.9%のメディケア税が課せられることになります。現状では夫婦合算申告を選択される方で$250,000を超える場合、夫婦個別申告を選択される方で$125,000を超える場合に追加の0.9%の対象となります。
失業保険税は雇用者が負担することになります。連邦失業保険は、従業員 1 人につき年間給与総額のうち$7,000 部分が課税の対象になります。税率は 6.0%ですが、州の失業保険税納付によって5.4%の控除が与えられるため、通常は 0.6%となります。ただし、SUTA税の場合、被用者の入れ替わりが激しい会社の場合などはそれだけ失業保険の申請が多くなり、その会社に対する税率が高くなることがあります。
2004 年、日米間で日米社会保障協定が調印され、2005 年 10 月 1 日に発効されました。この協定により、日米両国の社会保障制度への年金保険料の二重負担の問題と、米国での年金制度への短期加入による保険金の掛け捨ての問題が解消されました。協定発効以前は、日本から赴任して米国に滞在し給与を受け取る日本人は、米国の社会保障税を支払う義務がありました。つまり、通常、米国滞在時も、日本の厚生年金保険料を支払い続けているので、社会保険料の二重払いという状況になっていました。米国では、10 年の年金加入の期間要件を満たさなければ、年金の受給権が取得できないので、ほとんどの日本からの赴任者は、米国でのソーシャルセキュリティー税は掛け捨てになっていました。
カリフォルニア州では、カリフォルニア州の居住者、非居住者に関わらず、カリフォルニア州内から得た所得に関して課税されます。給与所得に関しては、連邦と同様に源泉徴収の対象となります。
連邦失業保険税と同様、州失業保険税は雇用者が負担することになります。カリフォルニア州の失業保険(Unemployment Insurance)に関しては、新規雇用者に対しては、3 年目まで 3.4%のレートが適用されます。その後は、それぞれの雇用者の状況によりレートが決まり、毎年 12 月に EDD (Employment Development Department)より翌年のレートが通知されます。
従業員(被用者)の年間給与総額のうち、給与総額のはじめの$114,967の 部分につき1%を、雇用者が給与から源泉徴収して支払います。
従業員(被用者)の年間給与総額の$7,000 部分につき 0.1%を、雇用者が支払います。
非課税法人を除く米国法人は、課税所得の有無に関わらず、法人税申告書である Form 1120 をIRS に提出する必要があります。Form 1120の提出期限は会計年度終了後4か月目の15日まで(例えば暦年の場合4月15日まで)となります(申告延長申請可)。
なお、米国には、法人以外にパートナーシップや Limited liability Company(LLC)といった法律的な権利を持つ組織体もあります。LLCについては法人として課税を受ける選択をする事も出来ますし、パートナーシップとして課税をされる場合もあります。パートナーシップや LLC は、課税上パートナーシップとして取り扱われる場合、それ自体は納税主体とはならず、パートナーシップアグリーメントで決められた損益配分比率により、パートナーシップや LLC のメンバーに損益が配分され、そのパートナーやメンバーがそれぞれの申告書にその利益を取り込んで課税を受けます。ここでは、これらの説明は省きますが、設立した会社がパートナーシップや LLC の場合は、個人の税務とも関係してきますので、この分野に詳しい会計士に相談することをお勧めします。
日本の法人税は、財務諸表作成のための「計算規定」が会社にて定められており、株主総会で承認された決算に基づいて作成されます。これを「確定決算主義」といいます。日本では税法上、引当金などの損金を計上するためには、その損金が企業会計上の決算に反映されていなければなりません。その結果として、会計上の利益と、課税所得は大きな差が生じないことになります。
一方、米国では、各州の会社法には日本のような計算規定がないので、企業は年に一度、決算を行うことだけが定められています。従って、米国では、法人税と会計基準の会計処理が異なることがあり、損益認識のタイミングがずれるケースが頻繁に見られます。例えば、減価償却方法は、会計上と税務上では異なります。
米国での法人税の算出は、Gross Income(総益金)から Deduction(損金)および Loss(損失)を差し引いて計算された Taxable Income(課税所得))に税率をかける方法をとりますが、財務会計上とは別に、税務上の処理基準を採用することになります。
Gross Income(総益金)(*1) (-) Deduction(損金) (*2) |
Income before NOL and Credit(繰越欠損金・控除前利益) (-) NOL and Credit(繰越欠損金・控除) |
Taxable Income(課税所得) (x) Tax rate(税率) |
Total tax before special credit(税額控除前税額) (-) Tax credit(外国税額控除等) |
Total tax(法人税) (+) Alternative Minimum Tax(代替ミニマム税) |
Total tax(当期法人税) (-) Estimate tax payment(予定納税額) |
Tax Due (申告納税金額) |
税額計算において、Gross Income と、Deduction の内訳を、以下に示します。法人のある支出が損金算入できるか、また損金参入可能な時期についての詳細は、IRC(Internal revenue Code-内国歳入法)やレギュレーション(財務省規則)に細かく定められています。
売上総利益(=売上高-売上原価)
受取利息
賃貸収入
ロイヤリティー
受取配当金
債務免除益
キャピタルゲイン
事業売却益
その他
給与・報酬
賃貸料
修繕費
貸倒損失
支払利息
広告宣伝費
ライセンス料
租税公課
減価償却費
寄付金
福利厚生費
その他
課税所得超 | 以下 | 税率 |
---|---|---|
$0 | $50,000 | 15% + |
$50,000 | $75,000 | 25% + $7,500 |
$75,000 | $100,000 | 34% + $13,750 |
$100,000 | $335,000 | 39% + $22,000 |
$335,000 | $10,000,000 | 34% + $113,900 |
$10,000,000 | $15,000,000 | 35% + $3,400,000 |
$15,000,000 | $18,333,333 | 38% + $5,150,000 |
$18,333,333 | - | 35% + |
上の表で税率が上下しているのは、課税所得が大きくなるにつれて、軽減された税額の取り戻しが起こるためであります。例えば課税所得が$1,400,000 の場合の法人税は、(50,000x15%)+{(75,000-50,000)x25%}+ {(100,000-75,000)x34%} + {(335,000-100,000)x39%} + {(1,400,000-335,000)x34%}=476,000 ドルになります。
2018年1月1日より税制改正により法人税率は累進課税が廃止され21%のみの税率となりました。また2018年より代替ミニマム税が廃止されましたので21%を超える税率で課税されることはなくなりました。
税率変更により、会計年度が2018年1月1日を越えて終了する場合注意が必要となります。法人税は年課税所得を一旦2017年度の税率で計算を行い2017年12月31日までの日数分の税額部分を算出し、そして年課税所得を2018年度の税率で計算を行った税額を2018年1月1日以降の日数分の税額を計算し、それらを合計させることになります。
予定納税とは、当期の見込み税額が$500 以上の法人を対象に、当期確定税額の 100%にあたる金額を 4 回に分けて 25%ずつ分割納税し、当該年度中に前もって税金を納付する制度です。暦年(12 月 31 日決算)の法人の場合、予定納税期限は、4 月 15 日、6 月 15 日、9 月 15 日、12 月 15 日と定められています。最終的な法人税申告書での税額に予定納税の金額が満たない場合は、その不足分について利息相当分のペナルティーが課せられます。ペナルティーを避けるためには、前年度における申告税額の 100%を 4 回に分けて納付するか(適用制限あり)、年次換算法による納付額を見積計算する必要があります。細かい計算方法は省略しますが、予定納税の計算は、税務申告を担当している会計事務所が計算を行い、納付金額を伝えてきますので、会計事務所の指示に従い、予定納税の納付を行ってください。予定納税の額が過少納付であった企業は「過少期間」中の過少金額に延滞利率を掛けた金額がペナルティーとして科せられますので注意が必要です。
ある法人がある州で法人税の課税対象になるかどうかは、その法人がその州で「事業活動を行っている(Doing Business)」どうかで決定されます。各州によって課税対象となる事業活動の定義は異なりますが、一般にある州で従業員を雇用したり、事務所を保有したり、棚卸資産などの有形資産を保有している場合、直接の販売活動を行っていなくとも、「事業活動」を行っているとみなされます。このようにある法人の活動や取引によって州に課税権が生じることをネクサス(Nexus)と呼びます。カリフォルニア州では、州内での「事業活動」の有無を基準に法人税を課しています。C Corporation の場合、カリフォルニア州の法人税率は、8.84%です。連邦税同様に予定納税を 四半期ごとに行います。初年度は支払う必要はありませんが、1 年目以降は毎年、赤字法人でもミニマムTax の$800 を支払う必要があります。複数の州にネクサスがあり、それらの州の課税対象となる場合は、法人の所得を各州に配賦(Allocation または Apportionment)する必要があります。各州への所得の配賦方法は州によって違いますが、収入、資産、給与の 3 つの要素を使って配賦計算をするのが一般的な方法です。カリフォルニア州の場合、同州に帰属する所得は、以下のように決定されます。
ユニタリータックスとは、法律的には別の会社であっても事業の活動から見ると 1 つの会社として行動しているとされる場合に、それらの会社をグループとしてまとめて課税しようという考え方です。この方法では、州の課税所得の算出を行う際、まず、当該企業の全世界の関連会社を含めた全企業の所得を合算して、その次にその合算所得の中のカリフォルニア州に帰属する部分を、全世界グループに占めるカリフォルニア企業の売上高、資産、給与の三要素の比率で割り出す方法で行われます。一般的に、ある一定以上の株式の持分関係にある親子会社あるいは関係会社間で、管理の集中、人的および機能的統合がある場合に、ユニタリービジネスを行っているとみなされます。ユニタリービジネスとみなされ、カリフォルニア企業単体で見れば赤字であっても、全世界グループで利益を出しているため、その利益の一定比率分が自動的にカリフォルニアに配分され、予定外の納税と言う事態にもなりえます。このようなことから、全世界ベースのユニタリー課税方式の代替方式として、1988 年の税制改正にて、米国内のユニタリーグループだけの合算申告方式である水際選択(Water’s Edge Election)が認められました。その後 1993 年の改正により水際選択の規定が改正されましたが、この水際選択は、1 度選択すると、原則その課税年度も含めて 84 ヶ月(7 年間)拘束されます。基本的に、米国内企業が黒字で米国外企業が赤字の場合、または、全世界合算課税によって、カリフォルニア州に帰属する課税比率を引き下げることができる場合は、全世界ベースでの課税のほうが有利になります。そのため、水際選択の際には、今後 7 年間の全世界および米国内ベースの利益水準と、カリフォルニア州への配賦率を考慮し、水際選択を行うかどうかの検討が必要となります。
売上税は、州内の「課税対象」売上に対して課される最終消費者関連取引税です。カリフォルニア州での売上税の税率は 7.25%ですが、郡(カウンティー)や市(シティー)などが、売上税別途課しています。ほとんどすべての州で、売上税は、物品等の最終購買者が支払う義務があり、売上税の徴収義務者は、それぞれの州で事業をおこなっている販売者とされています。課税対象となる「売上」は、有形固定資産の移転・交換・賃貸やサービスの対価などで、州内の課税品目を販売する業者が売上を上げた時点で、購入者から徴収しなければなりません。物品の購入者がその物品を再販売する場合には、その販売者は、売上税を徴収する義務を免除されるのが一般的です。この場合、購入者(再販売業者)より再販売証明書(Resale Certificate)を入手して保管する必要があります。(カリフォルニア州の場合は BOE-230)
使用税は、州内において物品を所有、保有、貯蔵、使用または消費することに対して課される税です。ある物品を他州で購入して使用する場合、売上税の徴収されていない物品に対して使用税を課すことになっています。使用税の場合、購入者が自己申告で使用税を納めるので、申告および納税が忘れがちになります。米国子会社が日本から資産を購入した場合、使用税の対象になりますが、使用税を納めていないことにより、後日税務調査で追徴されることがあるので注意が必要です。
州や地方自治体が課税する資産税(Property Tax)の対象資産は、州によって異なりますが、一般には、土地、建物に課せられる不動産税、什器備品、機械装置、工具などに課せられる動産税、フランチャイズ権や証券、売掛金等に課せられる無形固定資産税等からなっています。カリフォルニア州では、不動産課税と動産課税からなり、棚卸資産に対する動産税は、非課税となっています。