07.25.2018 | カテゴリー, Tax
昨2017年12月22日、トランプ大統領の署名によって成立した米国税制改正は従来の米国税制度を根本的に見直す重要な内容を含んでいます。特に、国際税務の領域では、参加免税制度の採用により、これまでの全世界課税制度よりテリトリアル課税制度(源泉地国課税制度)への移行を示すものとして注目されます。この制度移行によって、米国法人が特定の外国法人を所有する場合、当該外国法人から受領する配当については米国において免税扱いとなります(100%配当受領控除)。
一方、新たな参加免税制度への移行に伴って、特定の外国法人を所有する米国株主に対して、1987年以降の繰延(未配当)累積利益について一回限りの移行税(one-time transition tax; toll-charge)が強制的に課されることになります(みなし配当課税)。当該移行税は米国内国歳入法965条に規定されていますが、当該課税ルールについて米国法人株主に適用されるルールを念頭に置いて説明します。
1. 内国歳入法965条の適用範囲
内国歳入法965条に基づいて、特定外国法人(specified foreign corporation: SFC)の米国株主は、1987年以降のSFCの繰延累積所得をその所有割合に応じてサブパートF所得として合算申告しなければなりません。この場合の米国株主とは、外国法人のすべての議決権株式の直接、間接あるいは、みなし上10%以上を所有している米国個人、法人等とされています。10%基準を満たすか否かの判定については、「間接、あるいはみなし上」の所有概念に改正があった点に注意が必要です。例えば、ある米国法人(USS)が外国法人(FS)を5%所有しており、また当該米国法人(USS)の外国親会社(FP)が当該外国法人(FS)を95%所有している場合、改正後ルールでは、10%基準を判定する際に、外国親会社(FP)が所有している外国法人(FS)の95%の持分を米国法人(USS)が所有しているとみなされることになりました(Downward attribution rule)。これによって、外国法人(FS)は米国法人(USS)によって100%(直接5%、みなし95%)所有されていることになり、支配外国法人(Controlled foreign corporation: CFC、米国株主が50%超の株式を所有する外国法人)とみなされ、965条が適用されるSFCとなります[1]。965条が適用されるSFCについてまとめますと、SFCとは、(1)CFCおよび(2)一以上の米国内国法人が「米国株主」である外国法人(10%外国法人)と定義されます。10%外国法人は、965条の適用を受ける範囲でのみCFCとみなされます[2]。すなわちCFCでないSFCはCFCのサブパートF所得ルールで合算される所得を算定する目的のみでCFCとみなされます。
2. 移行税(強制みなし配当課税)の算出方法
1987年以降の外国繰延累積所得額を算出、合算した後、繰延累積所得のうち現金および現金同等資産の合計額に対応する所得額については15.5%、当該金額を超過するその他の資産部分については8%の税率をそれぞれ適用し、外国税額控除を考慮して税額を算出します。
1987年以降の外国繰延累積所得額
対象となる1987年以降の外国繰延累積所得額は、2017年11月2日もしくは2017年12月31日時点で測定された累積所得額(accumulated earnings and profits:会計上の繰越利益剰余金とは異なる)のうちいずれか大きい方の金額です。米国実質関連所得(effectively connected income)や課税済所得は当該累積所得から除外されます。965条は、米国株主がSFCの直接あるいは間接の所有者でなかった期間に累積された利益を除外する規定を置いていません。したがって、米国株主は、ある期間においてSFCの所有者でなかったとしても、1987年以降の期間に帰属する外国繰延所得を含める必要があると考えられます。
現金および現金同等資産
現金および現金同等資産とは、以下の資産項目を指します。
合算対象額のうち現金および現金同等資産の合計額は、(1)10%外国子会社の2017年12月31日以前の最後の事業年度の期末残高、あるいは(2)2017年11月1日以前の最後の2事業年度の平均残高、のうちいずれか大きい方の金額です。
15.5%と8%税率
2017年暦年法人の場合、最高税率が35%ですので、現金および現金同等資産の合計額に対して適用される15.5%の税率は、合算対象額に対してその55.71%の控除が認められる((1-0.5571) x 35%=15.5%)ことで、またその他の資産部分に対して適用される8%の税率は、77.14% の控除が容認される((1-0.7714) x 35%=8%)ことで算定される税率です。
みなし外国税額控除の容認
移行税である強制みなし配当所得額の合算に対しては「みなし外国税額控除 (deemed paid foreign income tax credits)」が容認されています(合算課税される課税対象額のうち非課税部分に対応する部分を除く)。税額算定過程の中では、みなし外国税額控除額は一旦課税所得額に加算[3]され、外国税額控除前の税額を算定後に同額を税額控除することになります。以下、簡単な具体例で説明します。
具体例
現金等 | その他の資産部分 | |
合算所得(400) | 200.00 | 200.00 |
控除率(2017暦年) | 55.71% | 77.14% |
控除額 | (111.42) | (154.28) |
控除後合算所得 | 88.58 | 45.72 |
合計 | 134.30 | |
外国税額控除グロスアップ[4] | 50.36 | |
課税所得額 | 184.66 | |
米国税額(税率35%) | 64.63 | |
外国税額控除 | (50.36) | |
外国税額控除後税額 | 14.27 |
ある米国内国法人がSFCを所有し、SFCの繰延累積所得が400であった。そのうち200が現金および現金同等物の合計額に帰する部分であり、残りの200はその他の資産部分に帰属する部分であった。SFCが支払ったみなし外国税額控除額は150とする。
8年間の分納制度の選択
納税については8年間にわたっての分納の選択を行うことができます。最初の5年間は、純税額の8%ずつ、6年目は15%、7年目は20%、8年目は25%の納税となります。
3.適用日
特定外国法人(SFC)の1987年以降の繰延累積所得額は2017年12月31日以前に開始するSFCの最後の課税年度にサブパートF所得に含まれます。米国株主はSFCの当該課税年度が終了する米国株主の課税年度に所有割合に応じて合算します。
例えば、SFCおよび米国株主の課税年度が2017年12月31日に終了する場合、1987年以降の繰延累積所得額はSFCの2017年12月31日の課税年度のサブパートF所得として含め、米国株主も2017年12月31日に終了する課税年度に所有割合に応じて繰延累積所得額を合算します。
また、例えば、SFCの課税年度終了日が2017年11月30日であり、米国株主の課税年度が2017年12月31日に終了する場合、1987年以降の繰延累積所得額はSFCの2018年11月30日の課税年度に含まれ、米国株主は2018年12月31日に終了する課税年度に所有割合に応じて繰延累積所得額を合算することになります。
4.2017年度申告における965条に関連した報告についての質疑応答集
内国歳入庁(Internal Revenue Service: IRS)は2017年度申告における965条に関連した報告についての質疑応答集[5]を公表し適宜改訂を行っています。現時点まで17の質疑応答を公表しています。その中で重要と思われる質疑応答について以下記載します。
質問3:2017年度申告書において965条に関連してその他の報告が要求されますか。
回答:要求されます。2017年度について965条に基づく所得を有する納税者は「965条移行税ステートメント(IRC 965 Transition Tax Statement)」を作成し、偽証の場合には偽証罪に問われることを条件に署名、電子的に申告する場合には、ポータブル・ドキュメントフォーマットの形式(ファイル名、”965 Tax”)で申告書に含める必要があります。965条移行税ステートメントには以下の情報を記載しなければなりません。
965条移行税ステートメントの雛型が添付されています。965条(a)に基づく所得額、965条(c)に基づく控除額、965条に基づく純税額、およびこれらの金額算定の根拠とる適切な記録を保存しておかなければなりません。さらに、次期以降の申告書を提出する際に追加の報告を求められたり、報告方式が異なることも留意点です。様式5471に関しては質疑応答8を参照して下さい。
なお、上記の各金額の算定や納税者が利用できる各種選択については、IRSが公表しているパブリケーション5292(Publication 5292)が参考となります。
質問4:2017年申告書上で965条に関してどのような選択が利用可能ですか。
回答:965条は合算される所得額に関して、あるいは純税額の納付について多くの選択を容認しています。965条(h), (i), (m)および(n)に選択に関する規定があります。さらに財務省およびIRSはSFCの1987年以降の累積所得の決定に関しての選択を公表しています。Notice2018-13を参照して下さい。
質問6:965条に関する選択はいつまでに行う必要がありますか。
回答:965条に関する選択は、当該年度の申告書を提出する期日(申告延長を含む期日)までに行わなければなりません。しかしながら、965条(h)の規定に基づいて純税額を分納するための選択を行う場合であっても、第1回目の支払いは当該年度の申告書を提出する期日(申告延長なしの期日)までに行う必要があります。
質問8:納税者が米国株主である場合、特定外国法人(SFC)が支配外国法人(CFC)であるか否かにかかわらず、すべてのSFCについて様式5471を2017年申告書とともに提出しなければなりませんか。
回答:提出しなければなりません。該当する納税者はSFCについての様式5471の1ページのスケジュールAの上部にある識別情報やスケージュールJ(CFCの累積所得の明細)も記入の上、提出しなければなりません。様式5471の提出除外については様式5471の記入要領を参照して下さい。またCFCの帰属ルールの改正に伴う様式5471提出除外についてはNotice 2018-13の5.02項に定めがあります 。IRSは今後必要に応じて様式5471の記入要領を改訂する方針です。
質問10:納税者は2017年度の申告書について965条に起因する税金をどのように納税するべきですか。
回答:納税者は以下の2つの納税を行うべきです。1つは965条を考慮しないで算出した税金の支払いであり、もう1つは965条に起因する税金の支払いです(質疑応答13および14で言及されている支払いや繰越額によって充当されている場合を除く)。IRSが2017年度の予定納税額を適用するかについては質疑応答13を参照して下さい。上記2つの納税は申告延長申請を考慮しない当初の申告期限までに行う必要があります。
965条に起因する税金の支払いは電信送金もしくは小切手あるいは郵便為替のいずれかの方法によって行わなければなりません。当該納税は965条(h)の分納の選択をする納税者については、2017年度の初年度第1回目の支払いとなり、また当該選択を行わない納税者にとっては純税額の全額の支払いとなります。965条の支払いに関しては、通常EFTPS(Electronic Federal Tax Payment System: 連邦電子納税システム)による支払いが強制されますが、代替方法として電信送金を使用した場合にはペナルティは生じません。したがって通常EFTPSによって納税することを強制される納税者は、電信送金によって965条の支払いを行うべきです。当該方法によって納税を行わない場合にはペナルティを課される可能性があります。電信送金の場合、5桁の税コード番号(09650)を使用することになります(詳細は、https://www.irs.gov/payments/same-day-wire-federal-tax-paymentsを参照)。小切手あるいは郵便為替によって支払を行う場合、適切な支払証書(様式1040-Vあるいは1041-V)およびその他の必要情報を含め、券面上には”2017 965 Tax”と記入して下さい。
965条を考慮しない納税については、通常の支払手続が適用されます (https://www.irs.gov/paymentsを参照)。この納税は965条の支払いと同時にあるいは別途に行うこともできますが、ペナルティや延滞税を避けるためには申告書の提出期日までに行う必要があります。
質問13:IRSは2017年度の予定納税額(2016年度からの繰越額を含む)を965条に基づく納税者の純税額にどのように適用しますか。
回答:2017年度の予定納税額はまず965条(h)(6)(A)(ii)(965条を考慮しないで算出された純税額)に定められたの納税者の純税額に適用され、その後で965条に基づく税額(965条(h)の選択による分納額を含む)に適用されます。
質問14:納税者の2017年の納税額(予定納税額を含む)が、965条(h)(6)(A)(ii)(965条を考慮しないで算出された純税額)および965条(h) の選択による初年度の分納額(2018年度に納付すべき)を超える場合、納税者は当該超過支払額を還付あるいは2018年度の予定納税に充当することができますか。
回答:できません。納税額が2017年度所得税の未納額全額(965条(h)に基づく次年度以降の分納額全額を含む)を超えるまで(超えない限り)、納税者は2017年度の納税に適切に充てられた部分の還付あるいは繰越を受けることはできません。2017年度の納税額が965条(h)(6)(A)(ii)(965条を考慮しないで算定された純税額)および965条(h) の選択による初年度の分納額(2018年度に納付すべき)を超える場合、当該超過額は翌年度の分納額(2019年度に納付すべき)に充てられます(さらに翌年度の分納額を超える場合には、翌々年度の予定納税額(2020年度に納付すべき)に充当されます)。
質問15:2017年度に965条(h)を選択した納税者が、965条に基づく純税額全額を含めずに過払額を算出した2017年度の申告書を提出し、当該過払額を2018年度の予定納税額として繰越す選択をした場合、IRSは、当該繰越額が2018年度の初年度分納額に充当できないことを理由として、納税者の2018年度の予定納税不足に対して追徴を決定しますか。
回答:いいえ。IRSは、納税者が2018年度の初年度分納不足額と2018年度の第2回目の分納額全額の両方を満たすのに十分な予定納税を第2回目の分納期日(すなわち12月決算法人については2018年6月15日)以前に行う場合には内国歳入法6654条あるいは6655条に基づく予定納税不足に対する追徴は行わないことを決定しました。予定納税不足に対する追徴を行わないとする決定は2018年度の第1回目の分納を2018年4月18日以前行った納税者に対してのみ適用されます。
IRSが6654条あるいは6655条に基づく予定納税不足に対する追徴に関する通知を納税者に送付した場合でも、上記の救済条件(第2回目分納期日までに必要な納税を行っている場合を含む)のすべてを納税者が満たしている場合には、納税者は当該通知を交付したIRS事務所に連絡を取り、これらの質疑応答および様式2210および2220の改訂された記入要領の記載内容に基づいて予定納税不足に対する追徴を免除(軽減)するように要請するべきです。
5.州およびローカル・レベルの課税
移行税(強制みなし配当課税)は連邦税法上のルールですが、当該ルールの対象となる米国株主は州およびローカル・レベルの課税への影響についても注意しておく必要があります。
一般に州は連邦の課税所得に対して各州の税務上の調整を加減算して州の所得税額を算出します。強制みなし配当所得を除外する州や移行税を考慮する独自のルールを採用しようとしている州もあります。また、連邦上の移行税算出時に認められた控除額についても州レベルでは加算調整を行う州もあります。さらに8年に亘って分納される税債務についても州、ローカルレベルでは独自に例外規定が置かれることが予想されますが、適用年度に認識、納税が求められる可能性がある点にも留意する必要があります。
[1] 内国歳入庁は、本改正によってCFCとみなされことになる外国法人については、報告様式であるフォーム5471を法人所得税申告書(様式1120)に添付して提出することを免除する意向である(Notice 2018-13, Section 5.02)。
[2] 内国歳入法965条(a)
[3] 内国歳入法78条のグロスアップ規定
[4] 外国税額控除グロスアップ額50.36は、外国税額控除150に対して55.71%と77.14%の按分控除率を考慮して算出します。
[5] Questions and Answers about Reporting Related to Section 965 on 2017 Tax Returns https://www.irs.gov/newsroom/questions-and-answers-about-reporting-related-to-section-965-on-2017-tax-returns