07.24.2019 | カテゴリー, Tax
2019年7月17日前日の決議動議を受け上院議員会において日米租税条約改正議定書に加えその他3か国の租税条約改正議定書が超党派により可決されました。
2017年、弊事務所のNews letterにて2013年に日米により改正議定書が相互承認されたにもかかわらず米国議会での承認がなされずに棚ざらし状況になっている理由につきご紹介いたしました。今回ようやく2019年7月17日に上院議員会にて懸案の改正議定書が承認されましたのでご報告いたします。これにて一気に改正議定書の発効が近付いてまいりましたが、上院議員会への承認可決への端緒となりましたのは今回に先立つ2019年6月25日にThe Senate Foreign Relations Committee(上院国際関連委員会)にて日本を含む4か国の改正議定書が承認され上院議員会へ裁可を求めて送られることが決まったことによります。この状況において上院議員会での可決の可能性が高まったことになったようです。今後はいくつかのプロセスを踏んで発効という手順になりますが、実際の発効日につきましては別途広報があるとのことです。今回の委員会での採決の結果は以下のようになっております。
ルクセンブルグ:93(賛成)3(反対)
日本:95(賛成)2(反対)
スイス:95(賛成)2(反対)
スペイン:94(賛成)2(反対)
本来議員会にかけられる改正租税条約は7か国ございましたが、今回は4か国が承認となり3か国が除外されることなりました。除外された国はハンガリー、チリ、そしてポーランドとなります。
日米租税条約改正議定書の概要
2013年、日米間で交わされた改正議定書の内容につきまして、以下に主な改正点の概要を記述させていたします。
第10条:配当支払い(源泉地国免税要件の対象)
現行 | 改正後 |
免税要件:持ち株割合50%超 | 免税要件:50%及びそれ以上 |
保有期間:12か月以上 | 保有期間:6か月以上 |
第11条:利子支払い(源泉地国課税-源泉税率)
現行 | 改正後 |
源泉税:10% | 源泉税:0% |
金融機関等の受取利息:免税 | 免税 |
第13条:譲渡収益
現行:課税対象 | 改正後:課税対象 |
原則不動産保有法人が締約国の居住者である法人 | 不動産保有法人が締約国の居住者である法人に限定されない。 |
第25条:相互協議(条約の規定に適合しない課税を受けた事案)
現行 | 改正後 |
両締約国の権限のある当局は合意によって解決するように努める。 | 合意に達することができない場合、当該者が当局へ申し立てをし仲裁を通じて解決される。 |
第26条:情報交換
改正後: |
情報提供に含まないものの規定:3項(d)の追加:弁護士その他の法律事務代理人がその依頼者との間で行う次のいずれかの通信の内容を明らかにする情報を入手し、また提供すること。 |
5項:提供を要請された情報が銀行その他の金融機関、名義人、代理人若しくは受託者が有する情報であることのみを理由にその情報の提供を拒否することを認めない。 |
第27条:徴収共助
現行 | 改正後 |
当該多方の締約国が課する租税を徴収するように努める。 | 租税並びに利子、徴収の費用、当該租税に対する付加価値税および当該租税に関する民事上または行政上の金選罰の徴収につき相互に支援を行う。 |
本改正議定書が発効された場合、米国関連業者から利息を受け取る日本居住者は特に恩恵を受けることになります。例えば米国子会社が日本の親会社から借り入れを行っている場合、現行の租税条約では米国子会社が利子を支払う場合に対しては10%を源泉し、残りの90%を支払うことになっております。しかし今回の改正発効により米国における源泉税支払い義務がなくなりますので日本の親会社は100%の利息を受け取ることが可能となります。
改正議定書は国内手続きを経た後に両国で批准され批准書を交換した日に効力を生じることになりますが、原則として源泉徴収される租税に関しましては議定書が効力を生じる日の3か月後の日の属する月の初日以降に支払われ、又は貸記される分からの適用となり、その他の租税に関しましては発効年の翌年1月1日から開始される課税年度より適用されることになります。
最後に
今回の可決に関しましてもケンタッキー州選出の共和党議員Rand Paul氏が強硬に反対を行いましたが、やはりケンタッキー州選出の共和党議員Mitch McConnel氏の強力な後押しにより決議するに至ったようです。McConnel氏は直接Paul氏を名指しでの批難を避けましたが、このような長期に渡る改正議定書の批准の停滞は米国への海外からの新規の投資を阻害し、米国の国益を損なっているとの批判を強い調子で行いました。彼の強力なリーダーシップによりPaul氏の反対を押し切ることができその結果上院での可決を見るに至ったようです。
今後の動向や詳しい内容や影響につきましては弊事務所の税務担当にご相談いただきますよう何卒宜しくお願いいたします。