05.18.2017 | カテゴリー, Tax
本年4月26日にNational Economic DirectorのGary Cohn氏とTreasury SecretaryのSteven Mnuchin氏によりトランプ政権の税制改革に関するガイドラインの発表がありました。発表された内容は2016年にトランプ氏が選挙運動中に発表していた内容と同じもので、一ページに簡単に記されたものとなっています。そのため具体的な内容は不明ですが、両氏は5月一杯に意見を聞きながら内容を煮詰めていくと強調しています。
今回の税制改革の目標は米国の経済の活性化、雇用の拡大、複雑化された税法の簡素化、中流家庭への税務上負担の軽減、そして世界でも高い税率の軽減(国際的競争力の強化)を目指しているとされています。今回のトランプ税制試案以外にも2016年6月には下院共和党Tax Reform Tax Forceから提出された「A Better Way」と名づけられた税制改革の試案が提出されています。もし今回本格的な税制改革が行われるということになるとレーガン大統領の時代に行われた1986年以来の大幅税制改革ということになります。以下に今回発表されたトランプ税制改革案を下院の改革案と比較しながら見ていただきたいと思います。
個人所得税 | トランプ案 | 共和党下院案 | 現行 |
税率 | 10%、25%、35% | 12%、25%、33% | 10%、15%、25%、28%、33%、35%、39.6% |
Net investment tax | 廃止 | 廃止 | 3.8% |
Standard deduction | 現行の2倍 | $24K(夫婦合算)
$18K(独身) |
2016年:$12,600(夫婦合算)
$6,300(独身) |
Itemized deduction | Mortgage支払い利子と寄付控除以外廃止 | Mortgage支払い利子と寄付控除以外廃止 | 医療費控除、税控除、支払い利子控除、寄付控除等 |
人的控除 | 廃止 | 廃止(Standard deductionと統合) | 2016年:$4,050 |
代替ミニマム税 | 廃止 | 廃止 | 26%または28% |
配当・投資所得税率 | 不明 | 不明 | 2016年:15%、20% |
法人税 | トランプ案 | 下院案 | 現行 |
税率 | 15% | 20% | 15%-35% |
代替ミニマム税 | 不明 | 廃止 | 20% |
海外所得 | Territorial (一回限りの課税) | Territorialシステム | 全世界課税 |
Partnershipからの所得税率 | 15% | 20% | Partnerの税率 |
遺産相続税 | 廃止 | 廃止 | $5,454,000控除 |
贈与税(Gift tax) | 不明 | 不明 | $14,000控除 |
ご覧のように大幅な減税となっています。そのため国庫の税収と国費とのバランス(Revenue neutrality)が取れないことで財政赤字の拡大を懸念する声が上がっております。それに対してMnuchin氏は軽減税率が米国への投資・市場拡大をもたらし、税収の押し上げが期待できると答えています。
さらに個人所得税においてItemized deductionが大幅に削られることで不動産業界からも、今回の税制改革を不安視する声が上がっています。不動産購入の動機付けの一つとして現行、借入利息支払い額と不動産税支払いの両方がItemized deductionにおける所得控除の対象となっており、税額を押し下げることがあげられています。しかし不動産税の控除がなくなり銀行借り入れ利息のみが対象となることにより、Itemized deductionが適用できないという理由で不動産を購入することを躊躇する人がでてきて、市場が冷え込むのではと心配する声が業界からあがっているようです。今回の予想改正法ガイドラインによると銀行借入利息支払いが例えば2016年で計算すると年支払い額が$25,200(夫婦合算)を超えない限り不動産購入をしたために受ける税務上の恩恵を受けることが出来ないということになります。つまり相当額の不動産を購入しなければ税務上の恩典が受けられないということなり、またこの金額を返せるだけの所得がないと無理ということになります。現行であれば州・市への所得税支払い額、固定資産税支払い額、そして借入利息支払い額の併せ技で$12,600(夫婦合算)を超えることは難しいことではなく、多くの人が恩典を受ける形となっています。そのため、不動産業界としては今回の税制発表が実現することで今まで不動産購入によって税務上の恩典を受けることが出来ていた一般の人々が不動産購入することを躊躇するのではと心配しているようです。
今回の提出された試案はたった1ページの簡単な内容で、具体的な内容に乏しく多くの部分で不明となっています。ですのでこれから税制改正の試案の具体的な作業ということになると思いますが、問題が山積していますので簡単には税制改正試案が提出されることはないと思われます。夏の提出を目指しているようですが、年末まで掛かるのではないかと見ている方もいらっしゃるようです。今回の税制改革はトランプ政権の大きな目玉となりますので、多くの人が注目しており、一刻も早い概要の開示が望まれるところだと思います。