11.21.2017 | カテゴリー, Tax
共和党税制改革案の発表
9月27日に共和党による税制改革法案の骨子が発表されました。税制改革のタイトルは「Unified Framework for Fixing Our Broken Tax Code」となっており、9ページにわたる内容となっております。その内2ページは税制改革の目的とゴールがしめされ、後の7ページに個人所得税および法人税の税制改革の概要が示されております。税制改革の概要は本年4月26日にトランプにより発表された1ページに簡単に示された内容と似ており、また以前より推測されていた内容とそれほどかけ離れたものではありませんでしたので、それほどの驚きをもって受け止められたようではありませんでした。以下に簡単ではございますが今回発表された概要につき説明させていただきます。(この後に配布された税制改革のPDFを添付いたしますのでご参照ください。)
個人所得税
個人所得税 | トランプ案 | 今回の共和党案 | 現行 |
---|---|---|---|
税率 | 10%、25%、35% | 12%、25%、35%及びもう一段それ以上の税率の可能性
|
10%、15%、25%、28%、33%、35%、39.6% |
Net investment tax(純投資所得税)[1] | 廃止 | 廃止 (弊事務所予想) | 3.8% |
Standard deduction(定額控除) | 現行の2倍 | $24K(夫婦合算)
$12K(独身) |
2017年:$12,700(夫婦合算)
$6,350(独身) |
Itemized deduction (項目別控除) | Mortgage住宅抵当借入金支払利子と寄付控除以外廃止 | Mortgage住宅抵当借入金支払利子と寄付控除以外廃止 | 医療費控除、税控除、住宅抵当借入金支払利子控除、寄付控除等 |
Personal exemption(人的控除) | 廃止 | 廃止(Standard deductionと統合) | 2017年:$4,050(個人毎) |
代替ミニマム税[2] | 廃止 | 廃止 | 26%または28% |
配当・投資所得税率 | 不明 | 不明 | 2017年:15%、20% |
今回の共和党案でもそうですが、従来と大きく変わる点は税率の変更、Standard deduction(定額控除)の大幅なUpとItemized deduction(項目別控除)のスリム化となっております。Standard deductionに重点を置きItemized deductionを制限することで税制の簡素化を図るとしております。一見Standard deductionが大幅な増加となりましたので、税額の軽減に大きく寄与するとおもわれますが、他方、従来Itemized deductionを利用していた所得層にとっては税額軽減の効果があまりない可能性があるかもしれません。また人的控除が廃止されますのでStandard deductionが大きく増えても従来人的控除を利用していた所得層としては、ケースによってはあまり大きな節税にはならないかもしれません。それから所得税率は大きく下がることになりますが、その税率が適用できる所得額の範囲はこの発表では不明となっております。
2017年ベースでの計算で単純比較をいたしますと、独身の場合、従来では合計控除額は$10,400(Standard deduction, $6,350+Personal exemption, $4,050)となり、今回の共和党案ではStandard deduction$12,000のみですので、その差額$1,600程度課税所得が減るだけとなります。もし結婚され子供一人の家族の場合、従来では合計控除額は$24,850(Standard deduction, $12,700 + Personal exemption 3x$4,050)で今回の共和党案では$24,000となりますのでかえって課税所得が増えることになります。
また提案された案で大きな特色はItemized deductionの制限で、寄付控除そして住宅抵当借入金支払利子のみが控除対象となりますので、従来固定資産税や州所得税をItemized Deductionとして控除していた方はむしろ課税所得が増えることになる可能性があります。特に州所得税が控除できなくなると州所得税の税率が比較的高いニューヨークやカリフォルニアに住む納税者に大きな影響があると考えられています。現状では、独身の方で住宅抵当借入金支払利子が$2,000、固定資産税が$2,000そして州への所得税源泉税額が$6,000ある場合、Itemized deductionとして$10,000が控除対象となります。そしてそこに人的控除を加えますと$14,050の所得控除が可能となります。一方今回の共和党案ではたとえ住宅抵当借入金支払利子が$2,000あったとしても、固定資産税と州所得税は控除対象になりませんのでStandard deductionの方が大きくなりますので、所得控除額は$12,000となり結果$2,050の課税所得増となります。ただ今回の骨子案ではChild tax credit(扶養家族税額控除)の額を増やす方向にあるとなっておりますので、もしお子様がいらっしゃるご家庭の場合は良い影響が出てくることになるかもしれません。これらの計算はその他の要因を無視したあくまで単純計算ですので個々のご事情により異なることになりますのでその点ご留意を賜りますようお願致します。
遺産相続税
法人税 | トランプ案 | 共和党案 | 現行 |
---|---|---|---|
遺産相続税(Estate tax) | 廃止 | 廃止 | $5,454,000控除 |
贈与税(Gift tax) | 不明 | 廃止 | $14,000控除 |
今回の案でも遺産相続税と贈与税の全面撤廃となっております。
法人税
法人税 | トランプ案 | 下院案 | 現行 |
---|---|---|---|
税率 | 15% | 20% | 15%-35% |
代替ミニマム税[3] | 不明 | 廃止 | 20% |
海外所得 | Territorial (一回限りの課税) | Territorialシステム(一回限りの課税) | 全世界課税 |
Partnership・S corpからの所得税率 | 15% | 25% | Partnerの税率 |
現行の最高税率35%から20%へ大きく税率が下がることになります。トランプの案では15%となっていましたが、従来共和党が案と提出していた20%に落ち着いた形となっております。またトランプ案でもあったように代替ミニマム税を全面撤廃ということをうたっております。現行法人税課税所得額が$50,000までであれば15%の税率となっております。もし課税所得が常時$50,000をきる企業の場合、この改革案はそれらの企業にとっては実質的な増税となります。この20%の軽減税率の恩恵を受けるためには単純計算で約$84,000以上の課税所得を計上する企業が有利ということになります。「今回の税率によると$84,000x20%=税額$16,800、現行の税率によると$84,000では$16,810($84,000-$75000=$9,000x34%+$13,750)」
この税率の軽減化にともない、共和党案では多くのTax creditやTax deductionを減らす方向にいくようです。特に国内での製造を行っている場合、現在、国内製造所得控除をとることが可能ですが、今回の改革案ではその所得控除を廃止するとなっております。しかし一方研究開発費に対する税控除や低所得者用住宅税控除は継続させるとのことです。
Partnershipや個人事業からのビジネス所得に対する税率はトランプ案では15%としておりましたが本案では25%となっております。現状ではPartnershipや個人事業からのビジネス所得はその受け取り手の所得として総合課税されることになり、よって適用税率はその総合所得課税額により異なることになっております。しかし今回の案ではその受け取り手の所得額の大きさ・少なさにかかわらず一律25%が適用されることになり、税率25%を超える所得を得ることの出来る納税者にとっては有利となっております。ただ、何が適格となるビジネス所得なのかの定義がはっきり示されておりませんので、ビジネス所得が不適格と見なされた場合には、受け取り手の所得として総合課税の対象になります。
そのほかにも減価償却対象資産の購入をおこなった場合、現行では50%のボーナス償却やCode Sec 179により、2017年では$510,000まで購入時一括経費算入ができることになっておりますが(総購入額制限有り)、共和党案では構築物を除く減価償却用資産の購入にあたり、少なくとも5年間は購入時に一括経費算入を全額許可するとなっております。
ただ一方、企業が借入金の支払利子に対して損金算入を行う場合にその損金算入額に一定の制限を与えるとしております。案の文言では「The deduction for net interest expense incurred by C corporation will be partially limited.」となっておりますので利子所得と利子費用をネットしたものにたいする制限のようです。しかし、どの様な制限を加えるのかはこの段階では不明となっております。
海外子会社の取り扱いにつきましてはテリトリアル課税制度へ移行し低減税率にて一括課税とし、さらに海外子会社からの配当に関しては100%非課税とするとしております。
法案実現化への道程
今回の改革案が実際に法案としての発効されるためにはまず両院にてこの改革案をベースにした国家予算案が通ることが必要となります。両院を可決した後にTax writer、Senate FinanceとHouse Ways and Means、により税務立法が始められることになります。最終的に議会の承認を得て法案が発効されることなりますが、今回の共和党案にはその行程表が示されておりません。ですのでこの改革案がいつ実際に発効されるのか不明となっております。ただ予測では早くても2018年1月1日からとなり、現実的にはそれより大幅におくれるのではないかと思われているようです。
[1] 純投資所得税とは配当所得、金利所得、キャピタルゲイン、賃貸所得やRoyalty所得等の投資所得にたいして、一定の所得を超えた場合にその投資所得に対して課せられる税。
[2]代替ミニマム税:高額所得者が税制の恩典により納税額を低く抑えることになった場合、税優遇項目を調整し課税所得を再計算したものに対して掛かる税。通常の課税と代替ミニマム税のどちらか高い税が選択される。
[3] 代替ミニマム税:個人所得税を参照。