07.05.2018 | カテゴリー, Tax
先日2018年6月21日におきまして米国最高裁判所にてサウスダコタ州とウェイフェアー社(インターネット小売業者)と(South Dakota v. Wayfair, Inc., No. 17-494)の係争にかかわる判決が下されました。この判決はサウスダコタ州に有利な判決となっており、特に注目すべき点は現在多くの会社が依拠しているかつての有名な判例、ノースダコタ州とクウイル社(Quill v. North Dakota)の裁判で認められたフィジカル・プレゼンス・スタンダードと呼ばれるものを無効にしたことです。
このフィジカルプレゼンス・スタンダードとは州政府は州外に拠点を構える会社(通信販売業者などの遠隔から小売販売を行うもの)がその州内の顧客に物品の販売等をおこなったとしても、州内に当該会社が実質的関連性・物理的拠点等を持たない場合州政府は当該会社が売上税を顧客から徴収し州政府へ納税することを強制できないというものです。例えばAという会社がある州に事務所、従業員、代理人、商品在庫、リース機材、や倉庫等を持たない・賃貸していない場合その州に対しては実質的関連性・物理的拠点を持たないとされています。よってAという会社がそのフィジカルプレゼンスをその州内に持たなければAという会社はその州内の顧客に対して売上税の徴収や納税、そして申告の義務がないということになります。今回の最高裁の判決ではこのフィジカルプレゼンスがなくても州は会社に対して納税義務を負わせることができるということが言い渡されました。この判決の影響は大きく、会社はその事業拠点がどこにあるかにかかわらず、顧客がいる州すべての州に売上税の申告をしなければならない可能性が出てきました。話を進める前に簡単に米国の売上・使用税について下記説明します。
米国売上・使用税について
米国では日本とは異なり最終消費者のみが売上税を支払う義務があり、その最終消費者に販売を行ったものが当該税を徴収し、州に対して納税申告を行う義務を負うことになっています。つまり中間卸業者である場合、直接最終消費者に商品を販売しない限り売上税徴収・申告義務からは免除されることになります。また上述しましたようにこの判例以前は州に対して実質的関連性や事業拠点等を持たない場合、その州への最終消費者への販売を行ったとしても売上税の徴収・納税・申告義務から逃れることが出来ていました。その場合、州は州内への販売に対して税額を徴収することが出来ませんので、その義務を最終消費者へ転嫁させることになります。それが使用税と呼ばれるものです。売上税支払い免除証明書保持者以外の場合、売上税は小売業者もしくは購入者のいずれかが支払うべきとされており、小売業者が納税する場合は売上税と呼ばれ、購入者が納税する場合は使用税と呼ばれることになります。
州と小売業者との法廷闘争
最高裁が売上税に関する判決を出すのは今回が初めてではありません。売上・使用税は州の特権事項となっており、基本的に連邦がかかわることがありませんので、多州間でのビジネスを行う会社は州と法の解釈をめぐって争うことが少なくありませんでした。州法の乱用によって多州間ビジネスを阻害することがあってはいけないという理由で、最高裁により州の課税を制限させるために実質的関連(Substantial nexus)や物理的存在・拠点(Physical presence)という考えが出てきました。しかしこれらの規制が足枷となり州の課税活動を制限することになりました。これらの規制の根拠となるものとして憲法があげられ、その主なものに以下の2つがあげられます。
Commerce Clause
これは米国憲法第1条第8項に書かれており、この条項は議会に州間や外国との商業取引活動を制限する権限をあたえるものとなっており、州間の商業活動は以下条件を満足されなければ制限されるものとされています。
Due Process Clause
これは米国憲法修正第14条からもので州はDue processを経ることなしに個人の生命、自由または財産を奪うことはできないというもので、州が課税するためにはDue processを求めることになりました。それらの主な条件は以下のようになります。
これらが根拠となり州が小売業者に課税するためには充分な実質的関連性を販売者がその州に対して持っていることが条件とされ、その実質的関連性はフィジカルプレゼンスを意味することになりました。よって小売業者がその州に対してフィジカルプレゼンスがない場合には州は州外企業に対しては課税できないという最高裁判例が生まれることになりました。
今回の判決
2018年6月21日に米国最高裁判所は上記の州への実質的関連性としての条件としてはフィジカルプレゼンスは必要ではないとの判決を出しました。実質的関連性は広範囲な現実的な州内での存在を通して得られるものと規定し過去のフィジカルプレゼンスの適用は行政が作り上げたTax shelterであったと規定しました。これにより州はフィジカルプレゼンスという呪縛から開放され州外への小売業者に対して課税する道を大きく開いたといえます。今回の判決で注目される点は売上税において経済的関連性(Economic nexus)という概念が認められた点です。2016年にサウスダコタ州はフィジカルプレゼンスが州にあるか否かにかかわらず以下の条件を満たした場合課税するとの法律を施行いたしました。
この条件は通常経済的関連性と呼ばれ、ある一定以上の経済的便益を州内で得ている場合にその州への関連性(Nexus)があるというルールです。今回の最高裁ではこの経済的関連性を実質的関連性として認めたことになります。
過去の法解釈は誤っていたとし、むしろフィジカルプレゼンスの条件が州間商取引の活動を阻害したとしており、差別的な取り扱いを助長したとの理解を示しております。インターネットの時代では売上税を課税しない分、州内の小売業者よりも低い販売値段をつけることができ、差別的な状況を作り上げてきているとも述べられています。また今回のサウスダコタ州の売上税法の変更は決して小売業者に手続きなどで過大な負担を与えられるものではないともしています。
ただし今回の判決はサウスダコタ州とウェイフェイアー社との裁判で下されたもので、この判決がすべての州での取引に適用されるわけではないということに留意が必要です。
その他の州の動き
今回の判決を受けいくつかの州では売上税法の改正に乗り出しています。参考として、以下がその概要となります。
コネチカット州:Nexusの規定の修正を行いました。州外からコネチカット州への総売上額が$250,000を超え、かつ200件以上の売上件数が12ヶ月間の間に取り扱われた場合にコネチカット州へのNexusが発生、つまりコネチカット州内でBusinessをおこなったと見なすとしています。
イリノイ州:イリノイ州は2019年1月1日より州外小売業者がイリノイ州の顧客へ$100,000を超えた売上を行うか、または200件以上の取引を行った場合、イリノイ州内でBusinessを行ったと見なすとしています。
アイオワ州:州外からの小売業者の売上額が$100,000超えるかまたは200件以上の個別の売上件数が生じた場合に州外小売業者はアイオワ州でBusinessを行ったと見なすとしています。
ルイジアナ州:州外からの小売業者がルイジアナ州内への小売販売総額が$100,000を超えるかまたは、200件以上の個別の売上件数が生じた場合にルイジアナ州内でBusinessをおこなったと見なすとしています。
アラバマ州:アラバマ州は2016年1月1日より経済的関係性があれば州は州外小売業者に対して課税できると法律を変更しました。アラバマ州への売上が$250,000以上かまたは前年度の総売上額の25%を超える場合にアラバマ州が課税できるとしておりました。ただ、これは現在係争中であり結論はでておりませんが、今回の判決が大きな影響を与えるものとされています。
この他にもアラバマ州、ハワイ州、インディアナ州、ジョージア州、ケンタッキー州、マサチューセッツ州、メイン州、ミシシッピー州、オハイオ州、ロードアイランド州、テネシー州、およびワイオミング州などがこの経済的関係性をベースにした申告ルールを使用または将来使用することになっています。
最後に
皆様ご存知のように近年インターネットの発達によりインターネットを通じての商品販売が拡大しています。しかしながら、売上税関連の法律は州毎により異なり、その適用も運用も州により異なるため非常に複雑な手続きを必要としています。米国では単一の法律や単一の税率ではないため、小売業者が全米にBusinessを展開する場合、この売上税手続きの複雑さが壁となっていたことは事実です。しかしインターネットの時代を迎えて個人が簡単に州の壁を越えて物品の購入をおこなうことが可能となった現在、売上税を徴収できない州にとって財政を逼迫させる要因にもなっています。今回のサウスダコタ州では個人所得税や法人税がないため、売上税は州の主要な財源となっていました。そのためインターネットを通じてのBusinessの発達はサウスダコタ州の財政に大きな影響を与えることになってしまいました。今回の判決はサウス・ダコタ州にとっては非常な朗報といえると思いますが、インターネットを使い販売を行う小売業者にとってはほぼ全米への申告義務が負わされるという過大な負担を覚悟しなければならないことになります。
今後多くの州で法改正の動きがでるとは思いますが、他の州で同様にサウスダコタ州の判例がその州においても認められるかどうかは予断を許すことはできないと思われます。そのため売上税に関する裁判が今後は活発になるかもしれません。